第1回 XR創作大賞用作品『ビター・スイーツ・チョコレ

第1回 XR創作大賞用作品『ビター・スイーツ・チョコレート』(7/7)
※大賞のレギュレーションに編集したものになります。

【八月二日】
あれから約半年後の今日。
彼女からはただの一度の連絡もなかった。
あったのはSNSサイトから『該当のアカウントは削除されました』という、無機質な通知だけだった。

(あなたが私に”これ”を残してくれた意味、少しだけわかるよ……)

最後のページをめくり終え、本を閉じる。
台座の上に置いた本は役目を終えて疲れた人のように静かに佇み、再び訪れるであろうその時を待つようだった。

(考え方は少し違っていたけど、私もあなたとずっと一緒に居たい気持ちは同じだったよ。だから――)

その姿はどことなく、私のよく知るあの人に、
たくさんの時と、思い出を過ごした彼女に似ていた。

「――だから……『さよなら』は言わないよ。それじゃあ、『またね』……今度は私の話を聞かせてあげるね」

こうして、彼女の記憶の旅は終わった。
だけど、これで終わりではない。
何故なら、ここはVR世界――彼女との旅は何度でもできるのだから……。

次は私の話をしよう。
たくさんのチョコレートと珈琲を手に、来年の今日はそのお返しをしよう。
そう決意し、私はログアウトボタンを押した。

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