第1回 XR創作大賞用作品『ビター・スイーツ・チョコレ

第1回 XR創作大賞用作品『ビター・スイーツ・チョコレート』(4/7)
※大賞のレギュレーションに編集したものになります。

遥か昔から人類は距離――”世界”という絶対的なものを乗り越えようと戦い続けてきた。
互いの言葉や気持ちを交わすため――ただそれだけのために手紙を生み出し、電話を生み出し、そしてVR世界を生み出し、絶対的な空間の隔たりを乗り越える事に成功した。

そんな先人たちの努力の結晶の上に私たちはいるのだ。

「あのね……あたし、クリスマスは多分ここに来れないのだけど、できれば今夜は、その……朝まで一緒にいたいなって……」
「えっ?」
「私ね、あなたの事が好き……もちろんわかってるよ。あなたの名前も何も知らないの変だ……って。でも――」

VR世界でのパートナー……お砂糖。
人と人との間にあった距離がゼロになた以上、そこにいる人たちに芽生える想いの終着は現実世界とさほど変わりはしなかった。

「――それでも、あなたとずっと一緒に居たいの」
「……正直、私はそういう経験もないし、あなたのきもちはちょっとよくわからない、かな。でも、これからもずっと一緒にいたいって気持ちは私も同じだよ。だから……それじゃあ、ダメ……かな?」
「ダメじゃないよ。ダメじゃないけど……きっといつか、あたしよりも一緒にいたいって人が出てきたらその人の所に行っちゃうから――」
「なにそれ。それじゃあ、あなたは私に他の人のところに行ってほしくないからって、私に首輪をつけるために好きだって言ってるの!?」
「ちがっ、そうじゃな――」
「違わないでしょ。私はこれからもずっと一緒にいたいって、たくさんの時間を一緒に過ごしたいって言ってると思ってたのに……私のことはなに? 寂しさを埋めるために一緒にいるの?」

思いもよらない言葉に思わず声を荒げてしまう。
表情が固まり、黙ってしまった彼女に言葉が止まらない。

「好きだって言わなきゃ――そういう関係じゃないとダメなの? そんなに”お砂糖”するのが大事なの?」

自分でもわかっている。
彼女がそんなことを思っているはずがない、と。
けれども、一度零れた言葉たちは堰を切ったように溢れ、止まらなかった。

私の怒声が響くなか、映像はプツンと途切れ、パタリと本が落ちた。

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