第1回 XR創作大賞用作品『ビター・スイーツ・チョコレ

第1回 XR創作大賞用作品『ビター・スイーツ・チョコレート』(3/7)
※大賞のレギュレーションに編集したものになります。

【十二月二十四日】
再び本のページを送る。
開かれた本を飲み込み、生み出されたスクリーンに映るのは静かに雪が降り続く――夜の銀世界だった。

(やっぱりこの日か……)

なんとなくはわかっていた。
次は彼女と喧嘩をした……この日だろうな、って。

「ねえ、今日って何の日か知ってる?」
「知ってるよ。クリスマスイブでしょ?」

はじまりはそんな何気ない会話からだった。

「今日はいつも以上にみんな静かだよね」
「まあ、時期が時期だからね」

誰とでも、気軽に会うことのできるVR世界では人類が夢見た『会いたい人との間に存在する距離をゼロにする』を実現することに成功していた。

もちろん、物理的な距離をゼロにするなんていうファンタジーな話ではない。
徐々に広まっていった知名度とともに、視覚や聴覚、触覚の共有技術が進歩したおかげで、あたかも”そこに本人がいる”と感じられるほどに私たちはその感覚を共有することに成功していた。
その現実味の高さは遠方や多忙な人――そして移動が困難な人たちから”なくてはならないもの”と言わしめるほどである。

Comments